退職金は必ず支払うべき?

退職金にはどんな決まりがあるの?

退職金制度はいったん導入に踏み込むと、就業規則や退職金規定などで定めた要件を満たす従業員が退職した場合には、退職金を支払う義務が発生します。

退職金は賃金と同じように労働者の重要な債権として法律で守られていますので、資金が不足しているから支払えなくても済むということではありません。

退職者との話し合いによって解決できれば問題はありませんが、訴訟にまで発展してしまうケースは多々あることです。

また、従業員が退職金を受け取る権利というものは退職したことによって発生するので、トラブルが発生するのは退職後ということになります。
これによって、退職者が現れてから退職金制度に問題が発覚するケースが多いようです。

退職金規程と支払い義務の関係

法律上、必ず退職金制度を導入する義務はありません。
したがって、会社で退職金制度を設けていなければ、支給する必要はありません。

一方、退職金規程を作ったら、企業側と労働者側で退職金支払いについての合意ができたと同じになるので規定に沿った退職金支払い義務が生じます。
つまり「退職金規程の作成=支払う義務の発生」となるのです。

また、退職金規程は就業規則に記載し退職金制度の対象者や計算方法等を明記することが法律上義務づけられています。

退職金規程に明示する内容

  • 退職金制度が適用される労働者の範囲 … 勤続年数や雇用形態による定義
  • 退職金の決定及び計算方法 … 不支給事由、減額事由を設けるか否か
  • 退職金の支払い方法 … 一時金、年金等の支払い方法
  • 退職金の支払時期 … 退職後いつまでに支払うか等

パターン別!こんな場合退職金は払うべき?

解雇した従業員に退職金は払うべき?

解雇の種類は、大きく分けて下記の3つに分類されます。

普通解雇
もっとも一般的な解雇のかたちで「病気によるもの」「職務懈怠・勤怠不良」「職場規律違反・不正行為・業務命令違反」などがあげられます。
いわゆる労働者の債務不履行を主たる理由とした解雇である、と言うことができます。
整理解雇
会社が経営不振の打開や経営合理化を進めるために、人員削減を目的として行う解雇をいいます。
いわゆるリストラの一環です。
懲戒解雇
「懲戒解雇」は、ほかの2つとは意味が異なるものです。
これは文字通り、当人の不当な行いに対する罰として行われる解雇です。

上記のそれぞれの解雇の場合でも、退職金規程に明確に定められている場合は、労働の対価としての賃金に該当し退職金を支払う義務があります。

「従業員が横領をした」という理由(懲戒解雇)であってさえ、退職金を一旦支払ったうえで、改めて損害賠償を求めるのが筋とされます。
しかし労働者との合意があれば相殺も許されるので、横領した労働者に退職金が全額支払われるケースは、実際にはそう多くはなく減額される場合が多いように思われます。

また、整理解雇だというだけで退職金が上乗せされる、とまでは言えませんが、上乗せされる傾向にはあるとは言えます。

非正規社員(パートタイマーや契約社員など)に退職金は支払うべき?

就業規則に退職金に関する規程が置かれており,パートタイマーには退職金を支給しない旨の定めがある場合、退職金は発生しません。

就業形態がまぎらわしい労働者(嘱託・臨時社員・派遣労働者・再雇用者)については「正社員雇用契約書」もしくは「パートタイマー雇用契約書」をきちんと取り交わした上で退職金規程上で明確に定義し、退職金の支給条件を明確にしておく必要があります。

支払わなかった場合どうなる?

退職金規程を作ったにもかかわらず企業が支給しない場合、従業員から未払い退職金の請求をされます。
労働者側からの請求に応じないと、労働審判や労働訴訟を起こされて、責任を追及される可能性が高いです。
未払い退職金には支給予定日から年6%の遅延損害金も加算されるので、支払いをしない期間が長引けば、その分金額が膨らんでいきます。

いつまでに支払わなければならない?

退職金の支払いは退職日以降とするのが一般的ですが、その支払い時期については、法律上特別な規定はありません。
就業規則等により、支払い時期を定めた場合は、その定めに従い、退職金の支払日が決定しますが、支払日について、特段の定めがない場合は、退職した社員から請求があれば、7日以内に支払わなければなりません。
支払い時期を過ぎると、遅延損害金が発生します。

退職金トラブルで弁護士に相談すべき理由

解雇・退職においては非常にトラブルが発生しやすく、難しい問題が多々あります。
そのため、退職金トラブルが起きないように事前に防ぐことが大事になってきます。

新しく退職金規程作る場合には、ひな形をそのまま使うことはお勧めしません。
会社の規模や業務内容や労務実態に合わせたオーダーメイドの退職金規程作成が不可欠です。

一方、既に現状運用している退職金規程や、規程はないものの会社として過去の運用ルールがあり、現状の制度を変える時は制約条件がでてきます。
毎月の給与と同様に、退職金は労働条件の中でも非常に重要な事項です。
さらに、金額面からみても非常に高額となるため、支給水準を下げることはもちろんのこと、制度を変更する際には社員の同意を得ることが不可欠となり、慎重な対応が必要になります。

また、すでに退職金トラブルが発生してしまった場合は、退職金を不支給・減額とすることは、難しい問題が多々あります。
弁護士が入って慎重に手続を進めていくことが重要です。

いずれにせよ、退職金トラブルは複雑な法律問題を伴い、対応を誤ると、想像を上回る莫大な損害につながります。
早期に弁護士に相談し、適切な解決を図る必要があります。

この記事を書いた人

吉津健三

弁護士 吉津健三
福島県只見町出身。中央大学法学部法律学科卒。
平成18年、福島県郡山市できつ法律事務所を設立。
令和3年度、福島県弁護士会会長を務める。

コメント
郡山市の皆様の法的トラブルが一刻も早く解決できるよう
常に迅速な対応を心掛けています。一人で抱えずにご相談ください。